かくありたいものです。
僕は日々、作業服を着て一般家庭を訪問し、ある設備の工事をしています。
先日、表札もなくお留守の家を訪問したときのことです。
隣の家の方からギコギコと音が聞こえて来ました。
この留守の家の苗字をお聞きしようと、その音のほうに近づきました。
すると、おばあちゃんが、ほっかむり?のような帽子とマスクの姿で 木の枝を切っていました。
そこで僕は、「すみませーん、このお隣の家の方の苗字は〇〇さんでお間違いないでしょうか?」と聞きました。
「はい、そうです。〇〇さんちです。」とお婆ちゃんは、手を止めてこちらを向いて、ニコニコした顔で答えてくれました。
ほっかむり?( よく農家のおばちゃんが被っている帽子)の奥の瞳がとてもキュートで、僕は「とても優しいそうで感じの良い人だな」と思いました
結局、その留守の家は諸事情で、工事をすることはできませんでした。
次のお宅に行こうと思い、車に乗りかけたところ、いつもは車に積んでいない「電動ノコギリ」 を積んでいたことを思い出したのです。
私はお婆ちゃんのところに近寄り、
「大変そうですね。もし良かったら、いい道具があるので切ってあげますよ」
と、声掛けをしました。
「あ、そうですか・・」
と、お婆ちゃんは言いました。
「隣の家の敷地の境界線を超えて、枝が伸びちゃってね〜!はみ出てる枝だけ切ってもらえば助かるんだけど・・」
と、お婆ちゃんは続けて言いました。
私はその日、比較的仕事の量が薄くさほど忙しくありませんでした。
そこからの理由もありましたが
それ以上に、
「このお婆ちゃんに感謝されたい!」
という、ちょっとやらしい?気持ちになったのです。
私は電動のこぎりを車から取り出し、目の前の枝を二本ほど切り始めました。
切りながら上を見上げると、境界線にはみ出でている枝がたくさんありました。
「厳密にいうと、これを切っても上のほうの枝が境界線から出ちゃってますね・・ さすがにそこまではやれないですけど・・」と、僕は言いました。
おばぁちゃんは黙っていました。
ぼどなくして、目の前の枝を切り終えて再度上の枝と、その枝の根元部分など注意深くみてみました。
よくみると、太い枝の部分を、5、6本切ればクリア出来る事に気づきました。
(うーん、やれなくはないな・・やってあげようかな・・)と、心の中でつぶやきました。
「あそことあそこあたりを切ると、だいぶすっきりしますね。もうちょっとやってみましょう」
と僕は言いました。
境界線となるブロック塀の上に乗って、高い枝を切り落とし始めました。
そこから思いのほか時間がかかってしまいました。
トータル、10分位だったと思います。
作業途中で「なぜ、俺は今こんなこと無償でやっているんだ?」
という思いも抱きました。
しかし、
「いろんな複合的な条件が成立したことによって(時間的余裕があった、気分が乗った、自分はお婆ちゃん子だったなど)の出来事だが、出会ってすぐの相手にこんな
ことまでさせてしまう、このお婆ちゃんの魅力、スゴくね?」
とも思ったのです。
端的にいうと、お婆ちゃんの瞳に僕はヤラレてしまったわけです。
感じの悪い婆さんだったら、間違いなく
「ほな、さいなら」です。
「あー、こういう人間に俺もなりたいものだな〜」
なんて、思いながら
なんとかはみ出ていた枝を全て切り落としました。
さすがに、そこからの細かい切り分け作業までは、僕はやらずに終わりにしました。
道具をしまい、帰ろうとすると、お婆ちゃんは手招いて僕を呼んています。
「ありがとうね〜!これ、食べて!」
と豆のお菓子と飲み物をくれました。
「あ、どうもすみません。では、失礼しまーす!」と僕は言い、
車に乗り込み、お婆ちゃんが何度も頭をさげる姿を見ながら、次の現場に向かいました。
車を運転しながら
「あの、お婆ちゃんは善人に違いない!」
と、勝手に思い込み、
「あーいう、人間になりたいな。長年の積み重ねの人生で、あの人柄が滲みでてるんだろーなー」 と感じた一日でした。
ちなみによく農家の女性や果物を収穫する時に使用する、つばのついた、すっぽりと顔を覆う帽子の名前ってなんていうですかね?
知っている人がいたら、教えてください。^_^;